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高松高等裁判所 昭和24年(ネ)38号 判決

控訴人(原告) 白石工業株式会社

被控訴人(被告) 富岡町長生地区農業委員会・徳島県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の被控訴人徳島県知事に対する未墾地買収処分無効確認請求を棄却する。

控訴人が当審において追加したその余の訴をいずれも却下する。

控訴費用(当審において追加した請求に関する分を含む)は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「(一)原判決を取消す。(二)長生村農地委員会(被控訴人富岡町長生地区農業委員会の前身、以下同じ)が別紙目録記載の土地につき昭和二十二年十二月十六日樹立した未墾地買収計画はこれを取消す。(三)長生村農地委員会が右買収計画に対する異議申立につき昭和二十三年一月二十日なした異議申立却下決定を取消す。(四)徳島県農地委員会が右異議申立却下決定に対する訴願につき昭和二十三年三月一日なした訴願棄却の裁決を取消す。(五)徳島県農地委員会が同日なした前記買収計画に対する承認はこれを取消す。(六)被控訴人徳島県知事が前記買収計画に基き昭和二十三年八月十二日なした買収処分(買収令書交付)が無効であることを確認する(但し(三)乃至(六)は当審において請求を追加したものであり、その中(四)(五)(六)は被控訴人徳島県知事を相手方とするもの)、(七)訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人富岡町長生地区農業委員会代理人は、控訴棄却の判決を求め、被控訴人徳島県知事指定代理人は、同被控訴人に対する訴につき、「控訴人の訴を却下する。若し訴が適法であるとすれば、控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

控訴代理人は、請求の原因として、

(一)  長生村農地委員会(以下村農地委員会と称する)は、控訴会社所有に係る別紙目録記載の土地(以下本件土地と称する)につき昭和二十二年十月九日未墾地買収計画を樹立し、同年十月十日より十日間右買収計画を縦覧に供したが、右縦覧期間が旧自作農創設特別措置法(以下単に自創法と称す)第三十八条第二項第三十一条第四項に違背していたため、村農地委員会は右買収計画を取消したものとして、同年十二月十六日改めて本件土地につき未墾地買収計画(以下本件買収計画と称する)を樹立した。しかし右当初の買収計画の取消は、村農地委員会の決議に基きなされたものではなく、また徳島県農地委員会の承認を受くることもなく、委員会事務当局が勝手になしたものであり、且つ控訴会社に対しその旨の通知をしていないから、右取消は無効である。従つて当初の買収計画は依然として存在しているというべきであり、村農地委員会が昭和二十二年十二月十六日なした本件買収計画は同一土地につき二重になされた買収計画であつて違法である。尚右取消が村農地委員会の決議に基くものとしても、買収計画は一旦公告された以上右計画を樹立した農地委員会自らがこれを取消すことはできない。

(二)  控訴会社は前記当初の買収計画につき昭和二十二年十月十八日村農地委員会に対し異議の申立をなしたところ、村農地委員会は同年十一月十七日右異議申立を却下する旨の決定をしたので、控訴会社は同年十一月二十四日徳島県農地委員会(以下県農地委員会と称す)に対し訴願を提起したものである。然るに県農地委員会は同年十二月二十四日右訴願は手続上不備があるとして、訴願書を控訴会社に返戻した。そこで控訴会社は訂正の上更に県農地委員会宛訴願書を村農地委員会に提出したところ、村農地委員会はこれを第二回目の買収計画(即ち本件買収計画)に対する訴願と勘違いをなし、右訴願は重複するからとの理由でこれを県農地委員会へ廻付しないで、昭和二十三年三月八日控訴会社に返戻して来た(控訴会社は本件買収計画についても訴願を提起していた)。以上の如く控訴会社は当初の買収計画につき訴願を提起しているに拘らず、村農地委員会が適当な措置をせず、従つて県農地委員会が右訴願に対し未だ裁決をしていないのに、村農地委員会が漫然重ねて本件買収計画をなしたのは違法であつて、かかる買収計画は取消されるべきである。

(三)  仮に前記最初の買収計画が有効に取消されたとしても、本件買収計画を定めるについては、徳島県開拓委員会に諮問しなければならないのに拘らず、村農地委員会が右諮問をしないで買収計画を定めたのは違法である。即ち市町村農地委員会が未墾地買収計画を定める場合であつても、県開拓委員会に諮問する必要があるものである。

(四)  本件買収計画は次の諸点において手続上違法がある。

(イ)  本件買収計画書には、何年何月何日の委員会における決議に基いたものであること、関与した委員の署名捺印並に作成年月日の記載がない。

(ロ)  本件買収計画は村農地委員会の決議以前に既に決定されている。即ち本件買収計画は事実上昭和二十二年十二月十五日決定され、その旨控訴会社に対し通知がなされたものであるところ、村農地委員会はその翌日である同年十二月十六日に本件買収計画の決議をしているのであつて、本件買収計画は村農地委員会の決議に基かないものである。

(ハ)  本件買収計画についてはその公告が不適法である。即ち公告は法律上単独行為の告知に該当する行政処分であるから、どのように公告するかは農地委員会において決議するを要するところ、本件買収計画の公告については村農地委員会の決議が存しない。

(五)  本件土地は自創法第五条第五号により買収してはならない土地であるに拘らず敢て買収計画を樹てた違法がある。即ち控訴会社は昭和十四、五年頃より本件土地の上方一帯に約五十四、五町歩の石炭石山を所有し、これより採掘した石炭石を本件土地の近くに建設せんとする製造工場(白艶華、炭酸カルシユーム及び肥料用石灰の製造工場)に運び、以てその事業を営もうとしているものであり、右石灰石運搬の最も経済的な方法としては本件土地に沿い流下する河川に沿い、本件土地上に索道またはその他適当な運搬方法を講じて最短距離にある明谷部落の道路に搬出するの外なく、また右事業経営の必須条件として本件土地を右工場の土砂、余剰残物の置場所として使用しなければならず、本件土地を買収されるにおいては運搬費用の多額により製品の高価を来し、経営相立たず、前記原料山の資源開発の由なきに至るものである。従つて本件土地は近くその使用目的を変更することを相当とするものである。而して控訴会社は、昭和二十四年十一月頃より社員井森田市を主任として現場に駐在せしめ、石灰石の採掘、工場建設の計画、原石採掘の現場より村道に通ずる専用道路開設の計画等をなし、また控訴会社の専用道路に連絡する村道の開設拡張の交渉を村当局に勧め、ひたすら事業の進展に精進している。一方長生村においては控訴会社の請願を容れ、村道の開設及び拡張改良費として工費六十万円が徳島県より届いたので、遠からぬ中に村道は本件土地の七百米位手前迄延び、またトラツクの通れる道路は控訴会社所有地(本件土地を含む)の下の谷間を通つて加茂谷村迄通ずることになつている。これを要するに本件土地は前記石灰石山に近接し石灰石搬出道路敷地または廃石捨場として是非共必要な土地である。尚本件土地を含む徳島県那賀郡富岡町大字明谷及び大字下大野山林面積一万一千一アールにつき、かねて控訴会社より四国通商産業局長に対し石灰石及びドロマイトの採掘権を出願していたものであるところ、昭和三十年七月八日採掘権設定を許可せられ、徳島県採掘権登録第一一五号で右採掘権を登録された。また本件土地はこれを耕地とするを適当としない土地であつて、むしろ地下資源の利用に供することこそ国土の利用を最高度に発揮するものである。従つて本件土地につき未墾地買収計画を樹立したのは違法である。

(六)  仮に本件買収計画が適法であるとしても、本件未墾地は買収計画の際長生村農地委員会の決議において、「開墾は三ケ年計画とし、開墾せざる場合は適当能力者に開墾さす」という条件であつたところ、本件土地の売渡を受けた訴外岡久正義は、売渡後七ケ年を経たるもその約十パーセントを開墾したのみであり且つ僅かに果樹の苗を植栽したままであつて、これは買収条件に適合しないものである。即ち買収後の事情変更により本件買収計画は取消されるべきである。

(七)  本件土地は公簿上は二反九畝二十一歩であるが、実測面積は一町三反五畝二十六歩である。右の如く実測面積が公簿上の面積と著しく相違する場合における買収は、農地委員会において実地を調査し実測面積によつてなすべきであるに拘らず、漫然公簿面積により本件土地につき買収計画を樹立したのは違法であつて、本件買収計画はこの点からも取消されるべきである。

(八)  村農地委員会は本件買収計画に対する控訴会社の異議申立につき、昭和二十三年一月二十日異議申立却下決定をなしたが、同委員会において右決定と一致する決議をなした形跡がなく、また右決定通知書の宛名は控訴会社宛となつていないから、右異議申立却下決定は違法である。

(九)  徳島県農地委員会(以下県農地委員会と称す)は、右異議申立却下決定に対する控訴会社の訴願につき、昭和二十三年三月一日訴願を棄却する旨の裁決をしたが、右裁決の主文を維持する理由に関し県農地委員会は審議をして居らず、右裁決の理由の部分は委員長名義を用いた何人かの作文である。また右裁決は徳島県農地委員会長阿部五郎名義であるが、同人は決議に関与していないから、右裁決書は委員会の意思を表示する文書ということができない。従つて右裁決は違法であつて、取消されるべきである。

(十)  徳島県農地委員会は、昭和二十三年三月一日付農地委員会に対し本件買収計画を承認する旨の通知をしているけれども、同日県農地委員会が右承認の決議をした事実がなく、承認書も作成されていない。また村農地委員会の県農地委員会に対する承認申請は訴願に対する裁決が終つた後になすべきであるに拘らず、村農地委員会が訴願に対する裁決がなされる以前である昭和二十三年二月六日県農地委員会に対し買収計画承認の申請をなしているのは違法である。また右承認申請は村農地委員会の決議を経ていない。而して訴願に対する裁決は裁決書の謄本が訴願人に到達することによつて効力を生ずるから、県農地委員会の承認はそれ以後において始めて有効になし得るものであるところ、訴願裁決書謄本が控訴会社へ送達されたのは昭和二十三年三月十三日であるに拘らず、県農地委員会がそれより前である同年三月一日本件買収計画に対する承認をなしたのは違法である。従つて県農地委員会の本件買収計画承認は自創法第八条の規定に違背しているから、取消されるべきである。

(十一)  被控訴人徳島県知事は、本件土地につき昭和二十三年八月十二日控訴会社に対し買収令書を交付して、未墾地買収処分をなしているが、本件買収処分は当然に無効である。即ち買収令書は買収期日において被買収者に交付されることを要するものであるところ、本件土地の買収期日は昭和二十三年三月二日であるに拘らず、買収令書が控訴会社に交付されたのは右買収期日を五ケ月余り過ぎた同年八月十二日であつて、かくの如き買収令書の交付は法律上無効である。また買収令書の交付は県農地委員会の適法な買収計画承認があつたことを前提とすべきであるところ、前記(十)の如く本件買収計画に対し県農地委員会の適法な承認がないから、右買収令書の交付も無効であつて、買収処分としての効力を生じない。のみならず本件買収計画については前記(一)乃至(七)の如く種々の違法が存し、殊に前記(五)の如く本件土地は未墾地として買収すべからざる土地であるから、本件買収計画に基きなした本件土地買収処分は当然に無効である。

仍て控訴会社は被控訴人富岡町長生地区農業委員会を相手方として、(一)村農地委員会が本件土地につき昭和二十二年十二月十六日樹立した未墾地買収計画の取消、(二)村農地委員会が右買収計画に対する異議申立につき、昭和二十三年一月二十日なした異議申立却下決定の取消を、被控訴人徳島県知事を相手方として、(三)徳島県農地委員会が右異議申立却下決定に対する訴願につき、昭和二十三年三月一日なした訴願棄却裁決の取消、(四)徳島県農地委員会が同日なした前記買収計画の承認の取消、(五)被控訴人徳島県知事が昭和二十三年八月十二日なした買収処分が無効であることの確認を夫々求めるため(但し右(二)乃至(五)は当審において請求を追加したもの)、本訴請求に及ぶ旨陳述し、

被控訴人富岡町長生地区農業委員会兼徳島県農地委員会代理人(但し徳島県農業委員会を相手方とする訴訟は徳島県知事において受継)は、答弁として、

(一)  控訴会社主張事実中長生村農地委員会が昭和二十二年十二月十六日控訴会社所有に係る本件土地につき未墾地買収計画を樹立したこと、控訴会社より右買収計画に対し異議の申立があつたが、村農地委員会は昭和二十三年一月二十日右異議申立を却下する旨の決定をしたこと、右決定に対し控訴会社より訴願を提起し、徳島県農地委員会が昭和二十三年三月一日訴願棄却の裁決をしたことはいずれもこれを認めるも、控訴会社主張の違法事由はすべて争う。

(二)  村農地委員会は昭和二十二年十月九日本件土地につき未墾地買収計画を樹立し、右買収計画書を同年十月十日より十日間縦覧に供したものであるところ、その後に至り右縦覧期間が法定日数(二十日間)に不足していることが判明したので、右買収計画を取消し、控訴会社にその旨通知した上、同年十二月十六日改めて本件買収計画を樹立したものであり、控訴会社主張の如く同一土地につき二重に買収計画を樹立したものではない。而して行政処分に瑕疵があつた場合その取消が国民の利益を不当に侵害するおそれがなく、また公益上の要求にも合致する場合にはこの処分をした行政庁自らがさきの行政処分を取消すことができるものである。殊に当初の買収計画が未だ確定していない間は利害関係人の権利も未確定であるところ、村農地委員会が当初の買収計画を取消した当時当初の買収計画は控訴会社の不服申立により未だ確定していなかつたのであるから、村農地委員会自らが当初の買収計画を取消しても何等差支ない。また右取消につき県農地委員会の承認を得ることは必要でない。尚仮に右取消につき村農地委員会が特別に取消の決議をしていなかつたとしても、本件買収計画を決議したことにより当初の買収計画を取消す旨の暗黙の決議がなされたと見るべきである。

(三)  本件買収計画は自創法第三十八条第一項同法施行規則第二十四条に基いてなした小面積の未墾地買収であるから、村農地委員会が未墾地買収計画を定めるにつき徳島県開拓委員会に諮問する必要はない。即ち自創法施行規則第十四条は都道府県農地委員会が未墾地買収計画を定める際の規定であつて、右規定は市町村農地委員会が未墾地買収計画を樹てる場合には適用されない。

(四)  (イ)買収計画書に控訴会社主張のような事項を記載する必要はない。(ロ)本件買収計画の決議は昭和二十二年十二月十六日なされたものであるが、控訴会社に対する買収計画通知書の日附が、同年十二月十五日附となつているのは、日附を誤記したものか或は決議を見越して前日に発送したものである。(ハ)本件買収計画の公告は自創法施行令第三十七条の規定に従い、長生村役場の掲示場に掲示してなしたものであつて適法である。

(五)  控訴会社は十数年前に本件土地附近の広範囲の土地を取得したが、全然事業に着手せず、わずかに本訴提起後なる昭和二十五年八月頃より附近の原石山に多少人夫を入れている程度であつて、工場も機械もなく、また道路はトラツクが入れぬ狭い道路で近々事業を開始し得る見込はない。控訴会社は、本件土地を将来石灰石の搬出道路或は廃石捨場に使用する意図であると主張するが、控訴会社は本件土地附近に条件の類似した土地を所有しているから、それを使用すればよく、本件土地が控訴会社の事業遂行上必要欠くべからざるものであるとは見られない。また未墾地買収計画の適否は買収計画樹立当時の状況に基いて判断すべきであり、売渡後の開墾が予定通り進行していないからといつて買収計画が違法であるとはいえない。尚本件土地は岡久家の先祖代々より所有していたものであるところ、訴外岡久富次の父が経済的理由によつてこれを手放し、転じて控訴会社の所有に帰したものであり、右富次の長男正義は先祖伝来の土地が自己の手に還つて来たことを喜び、開墾意慾に燃えているものである。

(六)  村農地委員会は昭和二十三年一月二十日なした異議申立却下決定の内容に副う決議をしているから、右決定に何等瑕疵はない。尚右異議却下決定通知書は控訴会社代表者白石恒二宛に送付すべきところ、誤つて会社名を脱落したものであるが、事実上控訴会社の代表者が右通知書を受領しているから、この程度の瑕疵は異議却下決定を取消すべき事由とはならない。

(七)  徳島県農地委員会は乙第八号証の二の裁決書案を原案として原案通り決議したものである。また裁決書は県農地委員会代表者として会長阿部五郎の氏名を記載しているのであつて、県農地委員会の意思表示文書として有効である。

(八)  徳島県農地委員会が訴願の裁決をする以前に村農地委員会が県農地委員会に対し買収計画承認の申請をしたことは認めるが、訴願の裁決があることを見越し村農地委員会があらかじめ承認の申請をしておき、訴願に対する裁決と同時に買収計画の承認を得るという便宜の方法を執ることは何等妨げないところであり、県農地委員会は訴願棄却の裁決と買収計画に対する承認とを同時に行つたものであつて、その承認に何等違法はない。また右承認は承認書を作成することを要しないものであるから、承認書が存しないことを以て直ちに承認が不適法であるとはいえない。

従つて控訴会社の主張はいずれも理由がないと述べ、

被控訴人徳島県知事指定代理人は、本案前の答弁として、

控訴会社が控訴審において、新に徳島県知事(以下知事と称する)を被告として追加したのは民事訴訟法上許されないばかりでなく、行政事件訴訟特例法(以下特例法と称す)第七条の場合にも該当せず、不適法である。即ち特例法第七条は、原告が被告とすべき行政庁が不明確等のため被告を誤つた場合にこれを救済するための規定であつて、而も被告の変更が許されるのは特例法第二条の訴即ち行政処分の取消又は変更を求める訴に限られるものであるところ、本件においては被告長生村農地委員会に対する未墾地買収計画取消請求訴訟の係属中にその請求訴訟はそのままにしておいて、右買収計画に基きなした知事の買収処分の無効確認を求める請求を追加し、あらたに知事を被告として追加したものであつて、かかる被告の変更が特例法第七条に規定する「被告とすべき行政庁を誤つたとき」に該当しないことは明瞭である(本件買収計画取消訴訟の被告適格を有するものは長生村農地委員会であつて何等被告の誤はない)。しかも知事に対する右請求は買収処分の無効確認を求めるものであつて、いわゆる抗告訴訟ではなく、出訴期間の制限もないから別訴によることが可能であり、また仮に控訴会社の主張が容れられて本件未墾地買収計画を取消す旨の判決が確定した場合には、特例法第十二条によりその確定判決は関係行政庁を拘束するから、知事は本件買収処分を取消さざるを得なくなることになり、敢て本件訴訟に知事を被告として追加し、知事の買収処分の無効確認請求を追加する必要がなく、而も右追加は著しく訴訟経済に反し且つ訴訟手続を遅滞させるものである。仮に右被告の追加が特例法第七条第一項本文に適合するとしても、被告とすべき行政庁の誤につき故意又は重大な過失が存した場合であるから、特例法第七条第一項但書の場合に該当し、被告の追加は許されるべきでない。これを要するに徳島県知事に対する新訴は不適法として却下されるべきである。

と陳述した。

(立証省略)

理由

第一、長生村農地委員会が昭和二十二年十二月十六日なした未墾地買収計画の取消を求める請求について。

(一)  徳島県那賀郡長生村農地委員会(以下単に村農地委員会と称する。右長生村は昭和二十九年四月一日富岡町に合併され、また昭和二六年法律第八九号農業委員会法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律附則第三項により、右長生村農地委員会のなした処分、手続等は被控訴人富岡町長生地区農業委員会がなした処分手続等とみなされる)が控訴会社所有に係る別紙目録記載の土地(以下本件土地と称する)につき、昭和二十二年十月九日旧自作農創設特別措置法(以下単に自創法と称す)第三十八条第三十条により未墾地買収計画を樹立したこと(旧自作農創設特別措置法施行規則第二十四条参照、以下これを便宜上当初の計画と称する)、村農地委員会は同年十月十日より十日間右計画書を縦覧に供したものであるが、右縦覧期間は法定日数(自創法第三十八条第二項第三十一条第四項により二十日間)に不足していたため、村農地委員会は改めて同年十二月十六日本件土地につき未墾地買収計画を樹立したこと(以下本件買収計画と称する)は当事者間に争がない。

先ず右当初の買収計画が適法に取消されたか否かの点につき検討するに、当審における被控訴人長生村農業委員会(富岡町長生地区農業委員会の前身)代表者倉橋巖二尋問の結果に徴すれば、当初の買収計画につき土地所有者である控訴会社は村農地委員会に対し異議を申立て、村農地委員会は右異議申立を却下したところ、控訴会社は更に徳島県農地委員会(以下県農地委員会と称す)に対し訴願を提起し、県農地委員会は審議の結果村農地委員会に対し当初の買収計画は法定の縦覧期間をおいていないから買収計画をやり直せとの指示を出したこと、ここにおいて村農地委員会は昭和二十二年十一月二十六日当初の買収計画を取消す旨の決議をなし、同年十二月十六日本件買収計画を樹立したこと並に右当初の買収計画の取消は当時村農地委員会より控訴会社に対しその旨の通知をしたことを認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠がない。右の点につき控訴会社は当初の買収計画の取消は、村農地委員会の決議に基きなされたものではなく、事務当局が勝手になしたものであり、また控訴会社に対しその旨の通知をしていないから、右取消は無効であると主張するけれども、右認定に照し右主張は採用できない。尚控訴会社は、仮に当初の買収計画の取消が村農地委員会の決議に基くものであつたとしても、買収計画は一旦公告された以上右計画を樹立した農地委員会自らがこれを取消すことはできないものであると主張する。しかし凡そ行政処分をなした行政庁はその行政処分に違法な瑕疵があり、これを取消すことが公益目的に合し且つこれを取消しても国民の既得の権利または利益を害するおそれがないような場合においては、自らさきになした行政処分を取消すことができるものと解するを相当とするところ、村農地委員会のなした当初の買収計画の取消は、前認定の如く買収計画の縦覧期間が法定日数に不足していることを後日発見したことに因るものであり、且つ未だ知事の買収処分がなされる以前であつて(殊に本件の場合は当初の買収計画に対し控訴会社は不服を申立てていて、右取消当時当初の買収計画は未だ確定していなかつたこと後に認定するところにより明らかである)、これを取消しても国民の権利または利益を侵害する事とはならないから、当初の買収計画の取消はその買収計画が公告された後であつてももとより適法であるといわなければならない。また右取消につき県農地委員会の承認を得なければならないとする根拠は見出せない。従つて当初の買収計画は適法且つ有効に取消されたものであり、本件買収計画が同一土地につき二重になされた買収計画であるとは見られず、この点に関する控訴会社の主張は理由がない。

(二)  控訴会社は、控訴会社としては当初の買収計画に対し訴願を提起していたのに拘らず、村農地委員会はこれを本件買収計画に対する訴願と勘違いして、右訴願書を県農地委員会へ廻付せずこれを控訴会社に返戻し、従つて県農地委員会が右訴願に対し未だ裁決をしていないのに、村農地委員会が漫然重ねて本件買収計画をなしたのは違法であると主張するにつき検討する。成立に争のない甲第六号証の一、二並に弁論の全趣旨によれば、控訴会社は当初の買収計画に対する異議の申立が昭和二十二年十一月十七日却下されたため、同年十一月二十四日右異議却下決定に対し訴願を提起したところ、徳島県農地委員会は右訴願書に手続上不備があるとして、これを控訴会社に返戻したこと、ここにおいて控訴会社は訂正の上改めて県農地委員会宛訴願書を村農地委員会に対し提出したところ、村農地委員会は本件買収計画について既に訴願が提起されているから右訴願は重複することになるとして、右訴願書を県農地委員会へ廻付することなく、昭和二十三年三月八日控訴会社に対しこれを返戻したこと、従つて右訴願に対しては県農地委員会が裁決をしていないことを窺うことができる。しかし当初の買収計画は前叙認定の如き経緯により村農地委員会が昭和二十二年十一月二十六日適法にこれを取消したものであることさきに認定した通りであり、当初の計画に対する右訴願は既にその不服の対象を失つたこととなるから、仮に控訴会社主張の如く村農地委員会が右訴願を本件買収計画に対する訴願と勘違いしていたとしても、村農地委員会が右訴願書を控訴会社に返戻し、結局右訴願に対し県農地委員会が裁決をしないまま村農地委員会が本件買収計画を樹立したことが違法であるとはいえない。従つて控訴会社の前記主張は採用できない。

(三)  控訴会社は、仮に当初の買収計画が有効に取消されたとしても、本件買収計画は徳島県開拓委員会の諮問を経ていないから違法であると主張する。しかし本件未墾地買収計画は村農地委員会が自創法第三十八条第一項によりこれを樹立したものであるところ、(本件土地の面積は公簿上二反九畝二十一歩)、市町村農地委員会が自創法の右条項により未墾地買収計画を定めるに際し都道府県開拓委員会に諮問しなければならない旨の規定は存しないから(自創法施行規則第二十五条により、都道府県農地委員会が市町村農地委員会の定めた未墾地買収計画を承認する場合に、都道府県開拓委員会に諮問しなければならない場合があるに過ぎない)、本件買収計画を定めるにつき村農地委員会が徳島県開拓委員会に諮問していないとしても、何等違法ではない。従つて控訴会社の右主張は理由がない。

(四)  次に控訴会社は、本件買収計画書には何年何月何日の委員会の決議に基いたものであること、関与した委員の署名捺印並に作成年月日の記載がないから、本件買収計画は違法であると主張する。しかし未墾地買収計画書には買収すべき土地、買収の時期並に対価等を記載するを以て足り、控訴会社主張のような事項を記載することは必ずしも法律上要求されていないから(自創法第三十八条第二項第三十一条第四項参照)、本件買収計画書に控訴会社主張のような事項が記載されていなかつたとしても、何等違法ではなく、右主張は理由がない。

(五)  次に控訴会社は、本件買収計画は村農地委員会の決議以前に既に決定されていたものであり、換言すれば本件買収計画は村農地委員会の決議に基かないものであると主張するにつき検討する。成立に争のない乙第二号証(長生村農地委員会会議録)に徴すれば、昭和二十二年十二月十六日徳島県那賀郡長生村役場において、長生村農地委員会が開かれ、本件土地につき未墾地買収計画樹立を決議したこと明らかであるところ、成立に争のない甲第二号証によれば、長生村農地委員会長増田順平が昭和二十二年十二月十五日附で控訴会社代表者白石恒二に対し、本件土地を自創法第三十条により買収する旨の通知をなした事実を認めることができる。従つて若し右甲第二号証の記載日附の通り昭和二十二年十二月十五日に村農地委員会より控訴会社に対し買収決定の通知が発せられたものとすれば、該通知は村農地委員会の前記買収決議の前日に発せられたこととなり、控訴会社所論の如く本件土地の買収が農地委員会の決議以前に既に決定されていたような観を呈するけれども、右通知書が果して昭和二十二年十二月十五日に発せられたものであるかどうかはこれを確認するに足る資料がなく、むしろ右甲第二号証に記載された日附(十二月十五日)が誤記であることも考えられるのみならず(右甲第二号証には、縦覧期間は農地委員会の決議の翌日である昭和二十二年十二月十七日よりと記載されている)、仮に村農地委員会事務当局の何等かの過誤により昭和二十二年十二月十五日即ち農地委員会の決議の前日に控訴会社に対し買収決定の通知が発せられたとしても、同年十二月十六日に村農地委員会において適法に本件買収計画樹立の決議がなされたこと前認定の通りである以上本件買収計画自体が違法であるということはできない。即ち買収計画は公告により外部に発表されるものであり、当該土地所有者に対する個別的通告は法律が必ずしもこれを要求していないから、仮に控訴会社に対する前記買収決定の通知が農地委員会の買収決議以前に発せられたものであつて、無効のものであるとしても、右は本件買収計画自体の適法性に影響を来たすものではない。従つて控訴会社の前記主張は理由がない。

(六)  次に控訴会社は、本件買収計画の公告は農地委員会の議決に基いていないから無効であると主張する。しかし買収計画の公告は農地委員会の議決した買収計画を単に外部に表示する行為(公告自体はいわゆる行政処分に当らない)であり、農地委員会が買収計画を定めた場合にはその事後の処理として法律上当然に行わなければならないものであるから(自創法第六条第五項参照)、公告につきあらためて委員会の議決を必要とするものでないこというまでもない。従つて右主張も理由がない。

(七)  次に控訴会社は、本件土地は控訴会社所有に係る石灰石山に近接して居り、控訴会社は本件土地の近くに工場を建設する予定であるから、本件土地は石灰石搬出道路敷地または廃石捨場として必要な土地であり、他面本件土地は耕地とするを適当としない土地であるから、本件土地につき未墾地買収計画を樹てたのは違法である、と主張するにつき審按する。成立に争のない甲第三号証、同第十号証及び同第十二号証の三、本件土地現場の写真であることに争のない同第四号証の一乃至四、当審証人井森田市の証言により真正に成立したものと認められる同第五号証、当審証人井森田市の証言並に弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴会社は石灰石を原料として炭酸カルシユームの生産を主たる事業目的とする株式会社であること、控訴会社は昭和十四年頃本件土地及びその附近一帯の山林を買受け、これを所有するに至つたものであるが、本件土地の上方の地帯には石灰石が相当量埋蔵されていて、昭和二十七年七月における地質調査の結果によれば、その推定埋蔵量は約七千万瓲であること、控訴会社は昭和二十四年十一月頃より労務者十数名を使用して、その採掘事業に着手し、採掘した石灰石は採掘現場附近にこれを貯蔵していること(昭和二十五年より昭和二十七年迄の間における貯鉱は約千瓲)、控訴会社は昭和二十六年一月三十一日本件土地附近一帯の区域につき四国通商産業局長に対し石灰石、ドロマイトの採掘権設定の出願をなしたところ、昭和三十年七月五日に至り右採掘権を許可され、同年七月八日その登録がなされたこと、控訴会社は本件土地の直ぐ上方に右石灰石を原料とする炭酸カルシユーム等の製造工場を建設せんとする計画であり、右工場が建設された場合本件土地は廃石捨場として利用するに好適であること、また控訴会社は右採掘した石灰石を搬出するため、本件土地上に専用道路を設ける計画であることを夫々認めることができ、本件土地は控訴会社が事業を遂行する上において相当必要な土地であることはこれを窺うことができ、また被控訴人長生村農業委員会代表者倉橋巖二の供述により真正に成立したものと認められる甲第一号証に徴すれば、本件土地附近一帯約五千坪は徳島県においていわゆる工場適地であることを認めることができる。しかし他方当審における鑑定人遠藤和夫の鑑定の結果、当審における現地検証の結果(第一、二回)を綜合すれば、本件土地は山の中腹にあつて南面し(標高百米乃至百五十米)、日当りは極めて良好であり、気候も温暖であること、土地の傾斜度は平均二十度であり、本件土地の上部部分は幾分傾斜が急であるけれども(但し二十五度以下)、耕作が不可能であるとは見られないこと、土層は七十糎乃至百糎の厚さを有していること、土性は非火山灰性の埴壤土であつて、一級土性であること、礫が多少存するも農耕に支障を生じない程度のものであること、従つて本件土地はその自然的条件より見て開墾可能であり、いわゆる開拓適地であることを認めることができる。

凡そ政府がいわゆる未墾地買収をなすに当つては、当該土地がその自然条件より見て開拓適地に該当するかどうか、自作農を創設しまたは自作農の経営を安定させるため買収が必要であるかどうかの点のみならず、当該土地を農業のために利用することが他の目的のために利用するよりも国土資源の利用に関する綜合的な見地から適当であるかどうかの点をも勘案しなければならないことはいうまでもないところ、右諸点の認定は相当専門的な知識を必要とするのみならず、国の経済政策国土政策等に基く考慮も必要であるから、一応農地委員会の裁量に委せられているところであるが、農地委員会の右諸点の認定に明白な過誤が存する場合には、農地委員会が裁量を誤つたものとして、その樹立した買収計画が違法性を帯びるものといわなければならない。しかし行政処分が違法であるかどうかの判断は専ら処分時を基準として判断すべきであり、処分後における事情即ち口頭弁論終結時迄の諸事情を参酌してさきの行政処分の適否を判断することはできないものと解するを相当とするから(最高裁判所昭和二八年一〇月三〇日判決、行政事件裁判例集第四巻第十号所載参照)、未墾地買収計画が違法であるかどうかも、その買収計画樹立当時の事情に基いてこれを判断しなければならない。今本件につき観るに、控訴会社は本件土地の上方の山より石灰石を採掘し、これを原料として炭酸カルシユーム製造事業を遂行する上において本件土地が必要であり、控訴会社は本件土地を買収により失うことにより将来右事業遂行に相当支障を来し、惹いては鉱物資源利用、炭酸カルシユーム工業の発展に影響を及ぼすことは前叙認定に照しこれを窺うことができるけれども、控訴会社が本件土地の上方に工場を建設することも未だ計画中であるに過ぎないことさきに認定した通りであるのみならず、本件買収計画が樹立された昭和二十二年十二月十六日当時においては、控訴会社は未だ前記石灰石の採掘を全然行つていなかつたことは、前顕甲第三号証、当審証人井森田市の証言並に前顕倉橋巖二の供述によりこれを認めることができ(控訴会社が採掘に着手したのは昭和二十四年十一月頃であること前記認定の通りである)、また控訴会社は当時採掘権設定の出願をもしていなかつたこと前叙認定に徴し明らかである。而して他方本件土地が開拓適地と認められることはさきに認定した通りであり、また本件を自作農創設のため買収することが必要であつたことは前顕鑑定人遠藤和夫の鑑定の結果に照しこれを認めることができるから、控訴会社において本件買収計画樹立当時既に前記石灰石採掘、工場建設等の計画を有して居り、また本件土地附近が工場適地であるとしても、食糧増産が何よりも緊要であつた昭和二十二、三年当時における国内経済事情をも考慮に容れると、村農地委員会が本件土地を未墾地として買収することを相当と認定したことにつき明白な過誤があるとは未だ認められず、控訴会社の主張並に全立証を仔細に検討しても、本件未墾地買収計画が違法であるとは断じ難い。尚控訴会社は、本件土地は自創法第五条第五号により買収してはならない土地であるに拘らず買収計画を樹てたのは違法であると主張するけれども、本件土地買収は未墾地買収であるところ、右自創法第五条第五号の規定(近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地で、市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て指定し、又は都道府県農地委員会の指定したものは、農地買収より除外する旨の規定)は農地買収に関する規定であつて、右規定は未墾地買収に準用されていないから、右主張は首肯し難い。

(八)  次に控訴会社は、仮に本件買収計画がその樹立当時において適法であつたとしても、本件買収計画は売渡を受けた者が三ケ年で開墾することを条件としていたものであるところ、本件土地の売渡を受けた訴外岡久正義は売渡後七ケ年を経過するもその約十パーセントを開墾し僅に果樹の苗を植栽したのみであつて、買収条件に適合しないから、本件買収計画は買収後の事情変更により取消されるべきであると主張するにつき考察する。成立に争のない乙第三号証に徴すれば、長生村農地委員会は昭和二十三年一月二十日本件買収計画に対する異議申立を審議するに際し、開発計画は三ケ年計画とし、一ケ年に三分の一宛を開墾するものとして、この間に開墾しない場合は適当な能力者に開墾させることとする旨議決したことを窺うことができるけれども、右は村農地委員会が本件土地開発についての方針を議決したに止まり、本件買収計画に条件を附したものとは見られない。尤も成立に争のない乙第十二号証(土地売渡通知書)によれば、徳島県知事は訴外岡久正義に対し昭和二十四年二月二日本件土地につき売渡通知書を交付するに際し、開発を五年以内に完成することを条件としたことを認めることができるところ、当審証人井森田市、同岡久正義の各証言、前顕倉橋巖二の供述並に当審における現地検証の結果(第一、二回)を綜合すれば、本件土地の売渡を受けた前記岡久正義は、当初本件土地の南西隅約八畝位(当審第二回検証調書添付現場見取図中(イ)の部分参照)を五段の畑に開墾し、そこに甘藷を植え、爾来毎年甘藷の栽培をして来たこと、右開墾した部分に昭和二十四年頃みかんの木約二十本、栗及び柿の木合せて約二十本を植えたこと(但し右の大部分はその後枯れ、昭和三十一年六月当時において、栗の木二本及びみかんの木二、三本が存在するのみである)、その他現在孟宗竹の林となつている部分の中五、六畝位及び西側境界線の中央稍上方附近を一畝半位(前記見取図中(ロ)の部分参照)を開墾したのみであることを認め得るに止まり、本件土地売渡後既に数年を経過しているに拘らず、前記岡久正義が開墾した部分は未だ本件土地中の一小部分に過ぎないことを認めることができる。しかし本件未墾地買収計画がその樹立当時において適法なものであるとすれば(本件未墾地買収計画が違法と認められないことはさきに判断した通りである)、その後本件土地の売渡を受けた者が右認定の如く売渡後数年を経過するもその土地の一小部分しか開墾していないという事情が存するとしても、買収計画樹立後の事情により一旦適法であつた買収計画が違法性を帯びるに至るものと解することはできない。尤も右認定の如く買収地の売渡を受けた者が売渡を受けて後数年を経過する該土地の一小部分しか開墾していないという事実からして結局当該土地は開拓適地ではなかつたのではないかという疑の生ずる余地があるけれども、当審証人岡久正義、同岡久百々清の各証言を綜合すれば、本件土地の売渡を受けた前記岡久正義が本件土地中前記開墾部分以外の部分を未だ開墾していないのは、控訴会社が昭和二十三、四年頃右未開墾部分の土地に杉、檜を相当本数植えたこと、控訴会社との間に本件土地を控訴会社所有の他の土地と交換するという話合が一時進捗したこと、また右岡久正義が病弱であつたのに加え、その弟百々清が大阪方面へ出稼ぎに行つていたため人手に不足していたこと等に原因するものであること並に右岡久正義は本件土地を開墾する意思を今尚有していることを窺うことができ、右認定の事情を考慮に容れれば、本件土地が売渡後数年を経過するも売渡を受けた者がその一小部分しか開墾していないからといつて、直ちに本件土地が開拓適地でなかつたものと断ずることはできない。而して買収土地の売渡を受けた者が売渡の際の条件(本件の場合は前記の如く五ケ年以内に開発を完成すること)に違背したとしても、それは都道府県知事がさきになした売渡処分を右条件違背を理由として取消すことがあるに過ぎず(前顕乙第十二号証の記載参照)、一旦適法に樹立された買収計画の効力に影響を及ぼすものではない。これを要するに、行政処分の取消を求める訴においては、裁判所は当該行政処分がその処分時において違法であつたかどうかを判断し、違法であると判定した場合にその行政処分を取消し得るに過ぎず、処分後弁論終結時までの諸事情を参酌して、裁判所が行政庁の立場に立つて当該行政処分が相当であつたかどうかを判断すべきものではないから、本件の場合においても本件未墾地買収計画樹立後における諸事情を斟酌した上本件買収計画が相当でなかつたものとしてこれを取消すことは許されない。従つて控訴会社の前記主張は理由がない。

(九)  次に控訴会社は、本件土地は公簿上の面積と実測面積とが著しく相違しているに拘らず、村農地委員会が漫然公簿面積により買収計画を樹立したのは違法であると主張するにつき考察する。本件土地の公簿上の面積(土地台帳に登録した面積)は二反九畝二十一歩であるところ、その実測面積は一町三反五畝二十六歩であること成立に争のない甲第十三号証並に当審における第二回検証の結果に徴しこれを認めることができる。しかし自創法第十条(同条は自創法第三十四条により未墾地買収の場合に準用される)によれば、買収に際しその土地の面積は土地台帳に登録した当該土地の地積によることとし、その例外として、市町村農地委員会が当該土地につき土地台帳に登録した地積を以てその面積とすることを著しく不相当と認め、別段の面積を定めたときは当該土地についてはその面積による旨定めているところ、前記認定の如く本件土地の公簿上の面積は実測面積と相違していること明らかであるけれども、その相違が右認定の程度である以上、村農地委員会が本件買収計画樹立に際し右別段の面積を定めなかつたからといつて、必ずしも本件買収計画が違法であるとは見られない。

以上これを要するに、控訴会社は本件未墾地買収計画に種々違法の点があることを主張するけれども、右主張はいずれもこれを採用し難く、本件買収計画の取消を求める請求は理由がないといわなければならない。

第二、村農地委員会が昭和二十三年一月二十日なした異議申立却下決定の取消を求める請求について。

村農地委員会が前記の如く本件土地につき昭和二十二年十二月十六日樹立した未墾地買収計画に対し、控訴会社が適法な異議の申立をなし、村農地委員会が昭和二十三年一月二十日右異議申立を却下する旨の決定をしたことは当事者間に争がない。

控訴会社は、当審において右異議申立却下決定の取消請求を追加したものであるところ、職権で右請求が適法であるかどうかについて審按する。村農地委員会が右異議申立却下決定をしたのは前記の如く昭和二十三年一月二十日であつて行政事件訴訟特例法施行前のことであるが(同法は昭和二十三年七月十五日より施行)、右異議申立却下決定に対しては控訴会社が更に徳島県農地委員会に対し訴願を提起し、県農地委員会は昭和二十三年三月一日右訴願を棄却する旨の裁決をしたこと成立に争のない乙第七号証の二及び同第八号証の一に徴し明らかであり、控訴会社が右裁決書謄本の送付を受けたのは同年三月十三日であること控訴会社の自ら認めるところであるから、前記異議申立却下決定の取消を求める訴は控訴会社が右訴願の裁決を知つた日即ち昭和二十三年三月十三日から一ケ月以内にこれを提起しなければならないものといわなければならない(自創法第四十七条の二第一項参照)。然るに控訴代理人は右異議申立却下決定が違法であることを当裁判所昭和二十五年三月三十日受附に係る同年三月二十九日附準備書面において始めて主張したものであること記録上明らかであり、右異議申立却下決定の取消を求める訴は既に出訴期間を徒過していて、不適法であるというべきである(行政訴訟においても、請求の基礎に変更のない限り、あらたに行政処分の取消を求める請求を追加することができるとしても、民事訴訟法第二百三十五条の趣旨に従い、右あらたに追加する行政処分取消請求はその行政処分についての出訴期間内でなければ許されないものと解するを相当とする。最高裁判所昭和二五年(オ)第二三一号昭和二六年一〇月一六日判決参照)。

第三、徳島県農地委員会が昭和二十三年三月一日なした訴願棄却裁決の取消を求める請求について。

徳島県農地委員会は、村農地委員会がなした前記異議申立却下決定に対する控訴会社の訴願につき、昭和二十三年三月一日右訴願を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争がない。控訴会社は当審において右訴願棄却裁決の取消を求める請求を追加したので、職権で右訴が適法かどうかについて判断する。(右請求は控訴会社が当審においてあらたに徳島県農地委員会を被告に加え、徳島県農地委員会を相手方として請求を追加したものであるが、徳島県においては昭和二十九年九月十六日徳島県農業会議が成立したことは顕著な事実であるから、昭和二九年法律第一八五号農業委員会法の一部を改正する法律附則第二十六項により、徳島県知事が右請求訴訟を受け継いだこととなる)。一般に農地或は未墾地買収に対する不服を主張する行政訴訟において、控訴審に至りあらたな行政庁を当事者に加え、その行政庁を相手方とするあらたな行政処分の取消を求める訴を追加すること自体は、後記第五において説示する如く請求の基礎に変更のない限り許されるとしても、右あらたな行政処分取消請求の追加は前記第二において説示した通りその行政処分に対する出訴期間内でなければ許されないものといわなければならない。而して県農地委員会が自創法に基きなした訴願裁決の取消を求める訴は、当事者が裁決のあつたことを知つた日から一ケ月内にこれを提起しなければならないところ(自創法第四十七条の二参照)、控訴会社が訴願裁決書謄本の送付を受けたのは昭和二十三年三月十三日であること前記の通りであると共に、控訴代理人が右訴願裁決が違法であることを始めて主張したのは、当裁判所昭和二十五年三月三十日受附に係る同年三月二十九日附準備書面であること記録上明らかであるから、徳島県農地委員会のなした前記訴願棄却裁決の取消を求める請求も既に出訴期間を徒過していて、不適法であるといわなければならない。

第四、徳島県農地委員会が昭和二十三年三月一日なした買収計画承認の取消を求める請求について。

職権で右請求の適否につき考察するに、右請求も控訴会社が当審において徳島県農地委員会を相手方として追加し、その後徳島県知事が右請求訴訟を受け継いだこととなるが(前記第三参照)、凡そ市町村農地委員会の定めた買収計画(農地買収たると未墾地買収たるとを問わない)に対する都道府県農地委員会の承認なる行為は、上級行政庁の下級行政庁に対する行為即ち行政庁相互間の対内的行為であつて、行政庁の国民に対する対外的行為ではないから、いわゆる行政庁の処分に該当しないものであり、右承認の取消を求める請求は行政訴訟の対象となり得ないから、その訴自体不適法であるといわなければならない(最高裁判所昭和二五年(オ)第一六〇号、昭和二七年三月六日判決参照)。

第五、徳島県知事の買収処分無効確認請求について。

(一)  本件訴訟は第一審以来控訴会社が長生村農地委員会(後に富岡町長生地区農業委員会)を被告(被控訴人)として、右村農地委員会が本件土地につき樹立した未墾地買収計画の取消を求めていたものであるが、控訴審たる当審において、あらたに徳島県知事を被告(被控訴人)として追加し、徳島県知事を相手方として、徳島県知事が本件買収計画に基き昭和二十三年八月十二日なした買収処分(買収令書交付)が無効であることの確認を求める旨の請求を追加したものであるところ(当審において追加した前記第三及び第四の各請求も徳島県知事が相手方となるが、右各請求が不適法であることは既に判断した通りである)、被控訴人徳島県知事指定代理人は、控訴審においてあらたに被告を追加することは民事訴訟法上許されないところであるのみならず、本件の場合は行政事件訴訟特例法第七条の場合にも該当せず、また買収計画の取消を訴求している以上知事の買収処分の無効確認を求める必要もないから、右被告の追加及び請求の追加は不適法であると主張するにつき、先ずこの点について判断する。

凡そ通常の民事訴訟においては、控訴審においてあらたに被告を追加し、右被告を相手方とする新請求を追加することは訴訟法上許されないこというまでもなく、また本件における従来の請求は、村農地委員会を被告として、同農地委員会の樹立した未墾地買収計画の取消を訴求していたものであるから、行政訴訟としての被告は正当であつて、本件の場合が行政事件訴訟特例法第七条にいわゆる「原告が被告とすべき行政庁を誤つたとき」に該当しないことも被控訴人徳島県知事代理人の指摘する通りである。しかし自創法による農地或は未墾地の買収は国がこれをなすものであるところ(自創法第三条第三十条参照)、その買収手続の段階に応じて買収に関する行政処分をなす行政庁(国の機関としての)が異つているため、買収に関する行政訴訟においても、買収手続中の如何なる行政処分につき不服を主張するかにより、被告とされる行政庁が異つて来ることとなるが(例えば買収計画の取消を求める訴は市町村農地委員会を、訴願裁決の取消を求める訴は都道府県農地委員会を、買収処分の取消を求める訴は都道府県知事を夫々被告とするように)、その実質上の相手方となるものはいずれの場合においても結局国であること明らかである。従つて本件の場合においても、控訴会社が村農地委員会を被告とする買収計画取消請求訴訟係属中に、右請求に加えて右買収計画に基く買収処分の無効確認を求めるため、買収処分をなした徳島県知事をあらたに被告として追加しても、訴訟の実質上の相手方は依然国であつて、実質上の当事者には何等変更がないものといわなければならない。而して控訴審においても請求の基礎に変更がない限り請求の追加(訴の変更の一種)は許されるものと解するを相当とするところ、従来の買収計画取消請求も、右追加した買収処分無効確認請求も共に同一土地に対する同一買収手続に関するものであつて、その請求の基礎は同一性を有するものということができるから、控訴会社が控訴審において、徳島県知事を被告に加え、徳島県知事のなした買収処分の無効確認請求を追加したことが必ずしも不適法であるとはいえない。尚若し控訴会社の主張が容れられて村農地委員会の定めた未墾地買収計画を取消す旨の判決が確定した場合には、行政事件訴訟特例法第十二条により、徳島県知事は本件買収処分を取消さゞるを得なくなること被控訴人徳島県知事代理人所論の通りであるけれども、前記買収処分無効確認請求は買収の実質的違法のみならず、その買収処分手続に関する違法事由をも主張しているから、従来の買収計画取消請求に追加して買収処分の無効確認を求めることが必ずしも訴の利益を欠いているとはいえない。また本件の場合右買収処分無効確認請求を追加したことにより必ずしも著しく訴訟手続を遅滞させるものとも認め難い。従つて控訴会社が当審において徳島県知事を相手方とする買収処分無効確認請求を追加したことが不適法であるとの被控訴人徳島県知事の主張は採用し難い。

(二)  そこで右買収処分無効確認請求が理由があるか否かにつき以下判断する。先ず控訴会社は、本件土地の買収期日は昭和二十三年三月二日であるに拘らず、買収令書が控訴会社に交付されたのは右買収期日を五ケ月余り過ぎた同年八月十二日であつて、かくの如き買収令書の交付即ち買収処分は法律上当然に無効であると主張する。成立に争のない甲第七号証の一、二によれば、控訴会社が本件土地についての買収令書の交付を受けたのは昭和二十三年八月十二日であることを認めることができ、買収処分は都道府県知事が土地所有者に対し買収令書を交付してなすものであるから、本件土地買収処分は控訴会社主張の如く右昭和二十三年八月十二日になされたものといわなければならない。然るところ本件買収計画において定められた買収の時期は昭和二十三年三月二日であること成立に争のない乙第一号証により明らかであり、また本件買収令書にも買収の時期を昭和二十三年三月二日と記載していること前顕甲第七号証の一により明らかである。従つて本件買収処分は右買収の時期を五ケ月余り過ぎた後になされたものであること控訴会社主張の通りであるけれども、買収の時期は買収計画書に記載されていて(買収計画書は縦覧に供される)既に予告されているところであり、また買収時期が買収令書の交付に至らずして経過した場合においても、買収計画は依然として有効に存続し、これに基く買収令書の交付も有効であると解すべきであるから、本件買収令書の交付が買収の時期より数ケ月遅れてなされたとしても、その買収処分が当然に無効であるとはいえない。従つて控訴会社の右主張は採用し難い。

(三)  次に控訴会社は、本件買収処分は、その前提となるべき県農地委員会の適法な買収計画承認がないから、買収処分としての効力を生じないと主張する。しかし成立に争のない乙第八号証の一(議事録)によれば、徳島県農地委員会は昭和二十三年三月一日徳島県会議事堂において委員会を開き、本件未墾地買収計画に対する承認を議決した事実を認めることができ、本件土地買収につき県農地委員会の適法な買収計画承認がないとはいえない。而して県農地委員会が承認の議決をした場合承認書というような書類の作成は法令上特に要求されていないから、承認書の作成がないからといつて県農地委員会の承認がないとはいえない。また成立に争のない乙第九号証に徴すれば、村農地委員会が県農地委員会に対し本件買収計画承認申請をなしたのは昭和二十三年二月六日であることを認めることができ、買収計画に対する異議申立却下決定に対する訴願につき県農地委員会が裁決をなす以前に(右裁決は同年三月一日になされたこと前記の通りである)、右承認申請がなされていること控訴会社指摘の通りである。而して自創法第八条(同条は同法第三十八条第二項ににより市町村農地委員会の定める未墾地買収計画に準用される)によれば、買収計画につき訴願の提起があつたときは訴願の裁決があつたとき、市町村農地委員会は遅滞なく当該買収計画について都道府県農地委員会の承認を受けなければならない旨規定しているけれども、右規定の趣旨は都道府県農地委員会は訴願裁決より前に承認を行うべきでないとする点に重点があると見るべきであり、必ずしも村農地委員会が県農地委員会に対してなす買収計画承認申請の時期までも訴願裁決の後でなければならないとする趣旨であるとは受取れない。従つて村農地委員会の承認申請が訴願に対する裁決前になされているとしても、県農地委員会の承認が訴願裁決前になされていない限り、右承認が不適法になるものではないと解するを相当とするところ、前顕乙第八号証の一に徴すれば、県農地委員会は昭和二十三年三月一日訴願に対する裁決と買収計画承認とを同時に議決していることが認められるから、県農地委員会の右承認が不適法であるとはいえない。尚控訴会社は、県農地委員会の承認は訴願裁決書の謄本が訴願人に送達された後において始めて有効になし得るものであると主張するけれども、県農地委員会としては訴願について棄却の裁決をなす以上その裁決が対外的に効力を生ずるのを俟つて買収計画の承認をしなければならないとする理由はなく、県農地委員会は訴願に対する棄却裁決と同時に買収計画の承認をなすことは何等妨げないものと解するを相当とする。従つて訴願裁決書の謄本が控訴会社に送付されるより前に、県農地委員会が本件買収計画の承認をしたとしても、その承認が訴願に対する裁決前でない限り違法であるとはいえない。また控訴会社は、村農地委員会の承認申請は同委員会の決議を経ていないと主張するけれども、村農地委員会が県農地委員会に対してなす買収計画承認申請は、既に村農地委員会において樹立した買収計画につき上級行政庁たる県農地委員会に対し承認を求める行為であつて、右申請をなすことにつきあらためて村農地委員会の議決は必要でないと解するを相当とするから、右主張は理由がない。これを要するに県農地委員会の適法な買収計画承認がないから、本件買収処分が無効であるとの控訴会社の主張は採用できない。

(四)  最後に控訴会社は、本件買収計画については種々の違法があり、殊に本件土地は未墾地として買収すべき土地ではないから、本件買収処分は当然に無効であると主張するけれども、本件未墾地買収計画に何等違法の点の認められないことは前記第一において詳細に説示した通りであり、本件買収処分は未墾地として買収すべからざる土地につきなされたものとは認め難いから、右主張も理由がない。

従つて被控訴人徳島県知事がなした本件土地買収処分が無効であるとは認められず、その無効であることの確認を求める請求は理由がないといわなければならない。

然らば本件未墾地買収計画取消請求を排斥した原判決は結局相当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、被控訴人徳島県知事を相手方とする本件買収処分無効確認請求は理由がないからこれを棄却することとし、控訴会社が当審において追加したその余の訴はいずれも不適法であるからこれを却下することとし、行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

(別紙省略)

原審判決の主文および事実

主文

原告の被告長生村農地委員会に対する請求は之を棄却する

訴訟費用中被告長生村農地委員会に関する部分は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は「被告長生村農地委員会が那賀郡長生村大字明谷字堂谷百九番地一山林弐反九畝二十一歩につきなした買収計画は之を取消す。訴訟費用中同被告に関する部分は同被告の負担とする。」との判決を求め、其の請求原因として被告委員会が原告所有に係る請求の趣旨記載の土地につき未墾地として買収計画を立てたが原告は以下述べる違法があるので之に異議申立をなしたところ之が却下決定あり更に徳島県農地委員会に訴願したが之亦棄却の裁決があり、已むなく本訴請求に及んだものである。即ち(イ)本件買収計画は自作農創設のため必要がないに拘らず買収計画を立てた(ロ)本件土地は自作農創設特別措置法第五条第五号により買収してはならないに拘らず敢て買収計画を立てた。蓋し原告は本件土地の上部一帯に相当広大な石灰石山を所有しており、之より採掘した石灰石を本件土地の近くに建設せんとする製造工場(白艶華、炭酸カルシユーム及肥料用石灰石製造工場)に運び、以つて其の事業を営まんとするものであるが、右運搬の最も経済的な方法としては本件山林に沿ひ流下する河川に添ひ本件山林上に索道又はその他適当な運搬方法を講じて最短距離にある明谷部落の道路に搬出するの外なく、又右経営の必須条件としては本件土地上に同工場の土砂、余剰残物の置場所として使用せなければならず、本件山林を買収されるに於ては、運搬費用の多額により製品の高価を来し経営相立たず、亦前記原料山の資源開発の由なきに至るもので、本件土地使用の目的を変更することを相当とするものであるからである。(ハ)本件買収計画には買収の時期並対価を定めなければならないのに拘らず之を定めていない。

以上の如き違法があるものであると陳述した。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、原告主張事実中被告委員会がその主張の如く買収計画を立てたこと、原告より異議申立あり之が却下に対し訴願をなしたがその棄却の裁決のあつたことは認める。其の余の点はすべて之を争う。と述べた。(昭和二十四年三月十日徳島地方裁判所判決)

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